美化委員の彼
「あ、知念。」
怠慢な動きでこちらを振り返る彼の顔は、いつも通り読めなかった。
「・・・凛くん。」
こいつの動きは何かの動物に似ている、気温が低いと動きが鈍くなる変温動物。
しかしこいつは人間だ、多分・・・そう思いながら平古場は、立ち止まっている知念の隣に並ぶ。
いつも通りに遥か頭上にある顔は、いつも通り表情が読めない。
「なにやってんだ。こんなとこで。」
「・・・これ、」
左手に持っていた業務用の大きなゴミ袋と、火ばさみを見せながら。
「ゴミ捨て。」
「んなことは分かってんだよ!」
盛大に突っ込んで、知念の脛を蹴りたい衝動を抑えて。
仁王立ちの姿勢に腰に手を添えて、頭上の顔を見上げる。
知念は、平古場の少ない説明を消化し、それからぱ、と頭を上げる。
「美化委員だった。」
「は?」
「美化委員の仕事。校内の掃除してたから。」
最後のゴミ捨てを任せられたと、読めない表情のまま知念は説明した。
「・・・へー。」
自分から説明をせがんだ癖に、興味の薄れた声を発する自分に対して、知念は不快感を感じてはいないのだろうか。
沈黙が降りる。
ふ、と知念の持っているものを見つめる。
「なあ、それ。」
「・・・それ?」
「火ばさみ。きれいだよな。」
きれい、と今聞いた言葉を反復する。
僅かに驚いた顔の顔が可愛かった。・・・動物的な意味で。
「そうか?」
今度こそ平古場は脛に蹴りを入れて、言う。
「・・・・・・。」
「ばっか、そのきれいじゃねえよ。新品だって話。」
比嘉中は、校舎自体が古くところどころにそれが見られる。
資料室への渡り廊下には大穴が開いている程だ。
それなのに、この反比例するような備品の新しさ。量の豊富さ。
軽く社会の矛盾を見せられたようで首を傾ける。訳が分からない。
分からないのは、あまり好まない。
「・・・去年、備品は一斉に取り替えたから。」
「ああ、去年もお前、美化委員だったっけ。」
こくん、と長身が頷く。
常に清潔を保った髪が、本人の動きに合わせてふさふさと揺れるのを平古場はいつも見つめている。
「あー、まあ頑張れ?」
「・・・? ああ・・・。」
浮き出た疑問を知念は隠さず顔に出して、答える。
・・・いらっ。
やれと言われたことをやる、問いに対して素直に答える。
この相方の、そんな素直さに時々、平古場は苛立ちを覚える。
自分の言葉を、ーただ、近しいという理由で、ある意味の信頼なのかもしれないがーそのままに受ける知念。
平古場はそんな彼の持つ素直さに時々、頭が吹っ飛ばされそうになるのを感じる。
その自覚している感情の意味を。
もう自分は分かっている、でも、自分はそれをまだ望まない。
「今日は木手に頼んで撃ち合いしよーぜ!」
早く終わらせろよ!、と背中に叫んでその場を後にする。
汗やホコリにまみれる彼を、この目でしっかりと見たかった。
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企画に提出したものだけど、反映される前にサイトがなくなっていたので再up知念←凛ですが恋とはほど遠いです。ドライな彼らが好き。でもこれはちょっと何思って書いたか分からない。多分凄く愛される知念君を書きたかった
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