低く、低いところで、低い音が、
長いこと揺られてすでに気にならなくなった、乗り物特有の音が体に響いている。






まどろみのなかで








田島は眠りからゆるくゆるく浮上していた。
まだ寝ていたい気もするが、何かが足りない、という本能の声に目を開ける。
固い自由席のシートに落ち着いた頭は窓の方を向いていたようだ。
その視界に映るのは、

「海。」

ずいぶん長い時間寝ていたようだ。
それを示すように、水分を補給していなかったためカラカラになった喉から出る声はかすれて小さい。

「もう感動することもないだろ、…今だって海ん中通ってきたんだ。」

上手く働かない頭で、隣の存在を無意識に認識する。
(いや、というよりこいつのことはいつでも分かるようになってんだ、俺の頭は。)
声を出すのも億劫なまどろみはまだ田島を解放してくれない。
斜め外へ傾いている頭をそのまま、眼球だけ動かす。

目線は、花井の手の中にあるペットボトルに落ちた。

「喉かわいた。」

「…ん!」

田島の視線に気づいて、花井は持っていたペットを田島へよこすが、彼の手は動く気配もない。
訝しげに花井が眉をひそめた。

「飲ませて。」

またこいつは。

常識とか周りの目とか相手の事とか考えてるのか考えてないのか分からないコイツに振り回されてはたまらない。
そう思った花井は眉間がぐ、と険しくなる。
田島には花井の心が透けて見えるようだった。
(こういう、寝ぼけてる時のほうが「俺」がなくて、花井の事がよくわかるんだ。)
ごめんね、と引き下がることもいいからはやく、と急かすこともできない止まった思考。
流れこんでくる「花井」に俺が流される感覚。
意思はなくても認識はするからさらによくない。

田島の思考は会話ではなく、花井に占められているのだ。

以前は、自分を怒る真面目な顔に(かっこいい)なんて、いちいち反応していたけど、
今はその感情を表に出すことは結構、抑えることができるようになった。
時たまに好きのキャパが溢れて、その自戒がとかれることもあるが。

とにかく田島は今、自然体で
鋭く花井を求めている。
花井はその田島の気配をこれもまた無意識に感じとったのか、
一度緩んだ眉間がもう一度きつくなった。

「口で。」

くちで飲ませて。

「ばか。人がいるから、だめだろ。」

怒ったような顔のまま憮然と言い放つ。

(ああ、人がいなかったらいいんだ。)

田島にはよくわからない、花井の基準をまた一つ知った満足感で、
田島が発していたあまりよろしくない気配少しはおさまる。

でもな、もったいないな、こんなに気持いいのに。
こんなに気持ちのいいところにいるのに花井はきてくれないのかな。

あーあ。

残念がった表情が出ていたのだろうか、隣で小さくため息がもれる。

「、ほら…。」

口から溢れる水。

べろりとあごに垂れた液体をなめられた。

「これでガマンしろよな。」






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何ヶ月も温めてきたネタ。
最初はハナタジがマイナーとは知らず思いっきり花井優勢(ていうかかっこ良さが比じゃない)と思っていたので、そういう感じが残ってます。
ハナタジいいよハナタジ。



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