「先生、目にキスしてもいいですか?」




スネイプはため息を吐いて低くうなる。一体どうして今までの会話からこのような台詞がでてくるのか皆目検討がつかなかった。目にキス?何故そんなことをされねばならない。そもそも目にキスというのは眼球にだろうか、まぶたにだろうか。眼球にキスなど、そのまま潰されそうで怖いではないか。まぶたを揉めば短時間だが疲れもとれるが、舐められてどうにかなるわけでもあるまい。まったく生産性のない”お願い”だ。理解不能だ。いやしかし

の理解不能さはここ最近上がりつつある。これはどうなのだろうか勉強のしすぎか?それで頭がいかれたのだろうかだとしたら不憫である。こんな生徒を相手にしている我輩こそ不憫?眉間のしわを無意識に深くして沈黙する目の前の教師に怯えることもなく、出された紅茶をすすり

はケラケラと笑う。

「先生またどっかに考え事しに行ってたでしょう。」

頭が、と。このめずらしいアジア産の魔女は好奇心旺盛な他の生徒の好奇心を煽るようで、何かにつけてちやほやされているようだった。環境のせいかマグルの習慣が抜けないため所属するスリザリンでは浮く存在となっている。そうなのだこの子は自分の寮生であり成績も、鼻持ちならないあのグリフィンドールとまではいかないが、非常によくやっていて、得意の、贔屓の対象となっている。
質問に来たときなどの礼儀正しい様子に特別追い払う理由も見つからず、自分は出された質問に丁寧に答えてやっているのに、とスネイプは思う。それなのにこの少女は何が不満なのか、それとも物足りないのか、彼女は紅茶を飲んで一つ、他愛のない質問をするようになった。それは他の教師陣にとっては苦にもならないものかもしれないが、我輩は違う。それらに答えてやる義務はないとでもいうように、彼はそれら全てに沈黙を守っていた。

(別に答えてくれるとも思ってないけど)

沈黙という選択をとることが、いかにも彼らしくて、いつも

は寮に帰ってから一人でふふふ、と笑いながら回想している(怖い)
答えてくれなくてもいいのだ。ただ、手軽に(といってもまだまだ距離はある)質問をさせてもらっている事実に喜びを感じていたいだけで。

しかし今日はどうだろう、いつもの「質問」ではない。「お願い」だ。どうしたものかとどうするつもりもないスネイプはちら、と自分の正面に座り(いつも通り)おいしそうに紅茶を飲む女生徒を見る。振り出しに戻る。ああ、頭が痛い。

はスネイプの視線に気づいたのか、こちらを向けば、(いつも通り)にこにこしていた。

「理由は聞かないんですね。」

「聞いて欲しいのか。」

「先生が聞きたくないのなら、言いません。」

「それはそれは。」

お気遣い感謝しますぞ。
平たい皮肉を込めてそういったら、先生の皮肉って愛があるから好きだわ、と返された。めまいもしてきた。
そんな彼の反応に少し申し訳なさを感じるが、ここでひいては折角たどり着いたこのポジション(といってもまだまだ先生と生徒)も意味がない。目頭を押さえたまま動かないスネイプの様子に笑みを深くさせて、口を開く。

あのね、

「ボン・ジョヴィも日本に来たって言うし。そんな出血大量大サービスを受けられなかった私は替わりに先生からちょっとしたサービスをと、」

「ナンセンス。まったく関連性のない。言っておくがボン・ジョヴィはアメリカのバンドで、イギリスではない。よって私には関係がない。もっと言うと、彼らはむしろ日本で人気なのだ。」

「そんな、軽い冗談ですよ・・・あら?先生以外と詳しいんですね。」

「ふん、知っているか、ジョン・ボン・ジョヴィは魔法使いだ。」

「えっ、本当ですか?素敵!」

「ライブで一度ワイヤー無しで飛んでいたのだ。」

「素敵!」


こんな日がずっと続けばいいのにって毎日祈ってる。
 


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