あゆむ



昨日は依存性の少ない睡眠薬を持たせてそのまま帰した。
が、これで問題は解決する訳でもない。彼女が薬を飲まない可能性だってあるし、彼女の他人に対する過剰意識が変わるわけでもないのだ。
人間嫌いな彼女と我輩はそういう意味では同じだが、原因に対する行動が正反対である。我輩は人を拒絶するし、彼女は自分を拒絶する。人が、嫌いと同時に好きなのだ。だが、人を拒絶する自分を世間の枠に当てはめることができない為に、他人の中に入り自分を疎外する。何と不器用なことだろう。青春をしている。訂正しよう。やはり我輩とは正反対だ。
噂をすれば、(噂も何も我輩一人の思考中であるが)角を曲がったところで

が現れた。
あちらも気づいた様で、とてとてと小走りに近づいてくる様子はさながらヒヨコである。
昨日の、激しい一面は今はすっかり隠れてしまっている。

「おはようございます、教授。」

「ああ。昨日は?」

「部屋に帰って、すぐ飲んだらあっという間に寝てしまいました。薬ってすごいですねえ。」

脳天気。外での仮面。昨日見た、強く望む死んだ目はまだ健在だった。

「今日も、薬を取りに来い。」

「昨日の薬は、まだ余っていますよ?」

「お前の場合寝ることが先決だった。様子を見ながら調合は変えるつもりだが、薬だけでは根本的な解決にはならん。まずお前は、十分で安全な睡眠を確保することに専念しろ。」

十分な睡眠が確保できてないのは先生の方なんじゃないかしら、と顔色の悪いスネイプの顔を見上げて思っても

は口には出さない。
スネイプはスネイプで、昨日薬を渡して終わらせよう、と思ったことなんて忘れている。開いた窓から見える外は明るく、空は青かった。そういえば昨日飲んだお薬はこれよりもきつい青をしていたな。
ぽかぽか、ぽかぽか。
 


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